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CLESCORT®(コーティング剤)
安全かつ簡便な酸化亜鉛コーティング剤
CLESCORT®は、DEZ(ジエチル亜鉛)を含み、簡便に取り扱いできるコーティング剤です。大気圧下、空気中で加熱した基材に塗布することで、均一な酸化亜鉛薄膜を形成することができます。形成された薄膜は透明で紫外線をカットするだけでなく、抗菌・抗ウイルス性能を持ちます。CLESCORT®は、ガラスや樹脂に対して塗布することで、透明性を保ったまま新たな機能を付与できる製品として、用途開発が継続して進められています。
DEZを利用した高機能性材料CLESCORT®の開発
DEZの安全な取り扱い技術の確立を目指して
DEZ(ジエチル亜鉛)は、沸点117°C、無色透明の液体で消防法危険物第3類自然発火性物質に分類されます。MOCVD(有機金属気相成長)法により、真空条件下、DEZ蒸気を基板上に噴霧することで酸化亜鉛薄膜を形成することができます。当社は2000年代後半頃からDEZの応用研究に力を入れており、より多くの人にDEZやその誘導体である酸化亜鉛を利用してもらうための技術を検討してきました。そうした背景から、当社はDEZの高い反応性を維持しつつ、取り扱いが容易な酸化亜鉛薄膜形成用コーティング剤CLESCORT®を開発しました。
スプレーで簡単に良質な酸化亜鉛薄膜をコーティング
CLESCORT®は、大気圧下、空気中で加熱した基板上にスプレー塗布することで酸化亜鉛薄膜を形成することができます。CLESCORT®の特徴は、有効成分として高い反応性を有するDEZを含有することです。そのため、従来の無機亜鉛化合物を原料とした酸化亜鉛薄膜と比較して、低温で良質な薄膜を形成することができます。

ウェットプロセスコーティング
実際、従来の無機亜鉛化合物を塗布溶液として使用した場合、成膜時のガラス基盤温度を350°Cまで加熱しても良質な薄膜が得られないのに対し、CLESCORT®を使用した場合は150°Cという低温でも膜密度が大きい良質な酸化亜鉛薄膜が得られます。これは、DEZのアルキル基に由来する高い反応性によるものと想定されます。当社では、CLESCORT®のスプレー成膜方法の確立を機に、2016年に機能性フィルム展に出展し、ユーザーの用途探索を始めました。
医薬用バイアルの開発
機能性フィルム展への出展をきっかけに、当社はバイアルメーカーと協業し、透明で紫外線を遮光可能な医薬用バイアルの開発に取り組みました。通常、バイオ医薬品は光に不安定なため、褐色バイアルに充填されています。しかし、褐色バイアルは「充填後の異物検査や色調識別が難しい」ことに加えて、「バイアルを褐色にするためにガラス中に練りこまれた鉄イオンが薬液中に溶け出すことで、薬効を阻害する」という課題がありました。
展示会出展の様子当社と協業先はCLESCORT®を用いてこの課題を克服できると考え、検討を進めました。透明バイアルへのコーティングでは、初めはバイアルにCLESCORT®を均一に塗布することができず苦労しました。しかし、スプレー距離やノズル形状を変更するなどの改良を重ねた結果、均一な酸化亜鉛薄膜が形成されたバイアルの製造に至りました。得られたバイアルは透明で良好な紫外線カット機能を持つことに加え、バイアル外面へのコーティングであるため薬液への金属イオンの溶出もありません。こうして、従来のバイアルの課題を克服した医薬用バイアルが開発されるに至りました。現在は、製薬メーカーにて実際の薬剤を充填して光安定性や薬剤性能が評価されており、実用化への期待が高まっています。
抗菌・抗ウイルス用途にも広がる
銀や銅、亜鉛のような金属元素は、金属イオンの効果によって強い抗菌性を発現することが知られています。また、同様に酸化亜鉛や酸化マグネシウムにも抗菌作用があることが近年の研究で明らかとなってきました。そこで当社でも、CLESCORT®を塗布することで得られる酸化亜鉛薄膜も同様の抗菌作用を示すか検証を進めました。その結果、大腸菌や黄色ブドウ球菌などの細菌類に対して抗菌活性を示すことがわかりました。さらに、同様に新型コロナウイルスに対して抗ウイルス試験を実施したとこ ろ、不活性化率99%という高い抗ウイルス効果を発現することがわかりました。今後は衛生用品へもCLESCORT®を適応できるよう、鋭意検討を進めています。
開発は続く
CLESCORT®は、DEZの高い反応性を生かした酸化亜鉛コーティング剤であり、従来法より穏和な塗布条件で優れた紫外線遮蔽効果を達成することができます。今後はより低温における成膜条件の確立や、より吸収波長領域の広い新規グレードの開発に取り組み、より取り扱いやすい製品を提供していく予定です。
使用方法

効果

用途
CLESCORT®を医薬用バイアルの外面に塗布すると、透明で紫外線をカットする酸化亜鉛薄膜が形成されます。紫外線による医薬品の劣化を抑えつつ、異物の有無が一目でわかる透明な紫外線遮光バイアルとして実用化されています。

酸化亜鉛薄膜には抗菌活性が発現することが知られています。これを生かして、例えばCLESCORT®をタッチパネルに塗布することで、高い透明性を維持しつつ抗菌・抗ウイルス効果を付与できる可能性があります。
