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EGMA(電子材料用高純度有機金属)
化合物半導体を支える材料
EGMAは、化合物半導体の製造に使用される重要原料です。代表製品であるTMIは、LEDやLDの発光層に用いられるインジウム供給源として広く使用されています。TMIは空気中の水分や酸素と激しく反応するため、取り扱いには厳重な安全対策が求められます。また、半導体の性能を最大限に引き出すためには製品の高純度化が必要であり、製造工程では厳密な品質管理が行われています。
化合物半導体製造に貢献するEGMA
電子材料分野への進出
東ソー・ファインケムは1969年からポリオレフィン用の重合助触媒であるアルキルアルミニウムを生産しており、自然発火性を持つ有機金属化合物を安全に扱う技術を蓄積してきました。そうしたなか、当社は1980年にテキサス・アルキルズからEGMA(電子材料用高純度有機金属)の製造技術を導入し、有機金属化合物の電子材料用途での展開を開始しました。当初は研究部門で少量生産していましたが、1982年にはEGMA製造設備を設置して本格生産を開始しました。
EGMA製造設備EGMAは化合物半導体の原料として用いられます。化合物半導体は電流を流すと発光する性質を持ち、主にLED(発光ダイオード)や LD(半導体レーザー)などの用途で信号機やCD/DVDプレーヤーなどに使用されています。また、従来のシリコン半導体に比べて高速で動作する、熱に強い、消費電力が低いといった特徴から電子デバイスや太陽電池用途での利用も期待されています。
EGMAの主力製品はTMI(トリメチルインジウム)です。TMIは塩化インジウムとTMAL(トリメチルアルミニウム)の反応によって製造され、現在は当社が国内唯一のメーカーとなっています。当社は1980年からTMIの生産を開始し、1994年には製造設備を新設しました。さらに、2021年にTMALの製造設備が完工したことで、原料からの一貫生産体制を確立しています。
TMIの高純度化への取り組み
TMIの製造プロセスでは、高純度化を達成するために蒸留精製を行っています。これには、きめ細かなハンドリングが求められ、精製窒素で封入したグローブボックスと呼ばれる装置のなかで、TMIに酸素を混入させないようにして製造する技術の構築が必須課題でした。化合物半導体は主にMOCVD(有機金属気相成長)法と呼ばれる、物質の表面に薄い膜を堆積する方法で製造されます。TMIをはじめとする当社のEGMAは成膜時の原料となりますが、このときTMIに含まれている酸素が成膜の歩留まり低下の要因となります。当社はプラントの気密性を高め、反応工程での酸素の混入を防ぐとともに、極微量の酸素を検知して取り除く技術を確立しました。現在では酸素濃度1ppm未満の低酸素TMIを生産する技術を有しています。
酸素に加えて、金属不純物の管理も重要な工程です。当社は約16種類ある金属元素を同時に検出する新しい高感度発光分析装置を導入したことで、1元素ずつ検出していた従来法に比べ、検出限界や分析速度の大幅な向上を実現しました。このような高精度の分析・評価技術は、生産技術とともに当社のEGMA事業の強みとなっています。
容器形状の工夫で成膜コスト削減に貢献
MOCVD法では、TMIなどの有機金属材料の入った容器にキャリアガスと呼ばれる不活性ガス(窒素やアルゴンなど)を送り込んで気化させ、基盤に吹き付けることで成膜を行います。しかし、従来の方法では、TMIの成膜過程で容器側面にTMIの粉末が固着して取り出せなくなる、あるいはTMIがキャリアガスとうまく混ざらず、得られる膜が不均一になって性能が低下するといった問題が生じていました。
TMシリーズの容器そこで、TMIをより効率よく使用し、長期間安定して均一な成膜ができるよう、当社は流体解析ソフトを用いた専用容器の開発に取り組みました。容器の内部構造を改造した結果、2000年にはTMシリーズと呼ばれる新型容器が誕生しました。TMシリーズは、その特殊な内部構造でキャリアガスの流れを制御し、TMI粉体を長期間安定して気化させることができます。さらに、TMIを粉砕し粒径を細かくするなどの改良も重ね、コンパクトな容器でありながら高い歩留まりを実現することが可能になりました。こうした工夫が、化合物半導体製造における性能の向上やコスト削減に貢献しています。
さらなる広がり
また、2021年にTMALプラントが完成したことを機に、電子材料向けにTMALを外販する取り組みも進めています。LED用途はもちろん、太陽電池や先端半導体などへの採用を目指し、技術開発やユーザー探索を行っています。化合物半導体の用途が広がる一方、先端用途では原料であるEGMAのさらなる高純度化が求められています。新たな需要の獲得を目指し、当社は精製技術、分析評価技術の開発を行っています。
使用方法
ラインナップ例


用途
TMIの用途の1つが、一般照明や信号機に用いられるLEDです。白熱電球に比べて消費電力を6分の1に抑えることができ、寿命も白熱電球が約1年であるのに対して6~8年と長いのが特徴です。

EGMAを原料として製造される化合物半導体は光や電波を扱うのに適しています。この性質を利用した用途の1つが高性能光センサーで、セキュリティ対策として普及が進む顔認証用の光源に用いられます。

CDやDVDの読み取りや書き込みには、LD(半導体レーザー)が欠かせません。TMIはLDの原料として用いられ、CD、DVDプレーヤーの部品に利用されています。
