地球環境に優しい新規フッ素系ガス

CFIは、地球環境に優しいフッ素系ガスです。ほかのフッ素系ガスと比べて大気寿命が0.005年と極めて短く、大気中で早期に分解するため、オゾン層破壊係数ODPは0、地球温暖化係数GWPは0.4と、優れた環境特性を示します。当社は2013年に世界初となる量産化を達成し、世界に高品質なCF₃Iを提供しています。消火剤、半導体用エッチングガス、マグネシウム合金用カバーガスなどの分野で、従来のフッ素系ガスに代わってCF₃Iを用いる取り組みが進んでいます。

実験室から社会へ!
夢のフッ素化合物を世界初の合成法で量産

挑戦の始まり

1987年、当社の前身である日本ハロンは、大きな転換期を迎えていました。オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書が採択され、主力製品のCF₃Br(ハロン1301)を含む特定フロン類の生産や使用の規制が決まったのです。この影響で当社は1993年にハロン類の生産を停止し、創業当時からの主力製品を失うことになりました。

img_story_07_01CF₃Iシリンダー

そうしたなか、ハロンに代わる次世代のフッ素系消火剤として注目されたのがCF₃Iでした。CF₃Iの有用性は当時から知られていたものの、大量生産法は確立されておらず、その特性を十分に利用できていませんでした。当社は1994年にCF₃I量産法の開発に着手し、CHF₃(トリフルオロメタン)とヨウ素を原料とした「気相触媒連続反応」という世界初の合成法を確立しました。この合成法は、反応に使用するヨウ素を理論上すべてCF₃Iの合成に利用できる工業的に優れた方法でした。一方、ヨウ素を気体で取り扱う特殊な反応であるがゆえに一般的な反応器が使用できないという課題がありました。その後、1999年から社内プロジェクトを立ち上げて本格的に量産化技術開発を行ったものの、良い解決策は見つからず、量産化はなかなか進展しませんでした。さらに、市場動向の変化でCF₃Iの消火剤としての需要が不透明となり、開発の行方は厳しさを増していました。

NEDOの代替フロン開発プロジェクトに参画

そうしたなか、大きな転機となったのはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の代替フロンの開発プロジェクトへの採択でした。2002年度からスタートしたこのプロジェクトでは、CF₃Iの量産化に向け、セメントの製造などに使う「ロータリーキルン型」の反応器を用いるという革新的なアイディアの具現化に取り組みました。反応条件の最適化を地道に進めた結果、最終的に実証プラントの連続運転に成功し、CF₃Iの工業生産を達成することができました。これらの業績から、2016年には事業化の中心となった社員5名がヨウ素学会賞を受賞しました。

さらに、NEDOの支援を受けて消火剤以外の各種用途開発を行い、半導体用エッチングガス、マグネシウム鋳造用のカバーガス、電力機器用の遮断ガスなどとしての評価を行いました。この成果をもとに、CF₃Iはいくつかの用途で少しずつ実用化されていきました。

その後、用途の広がりに合わせてプラントの能力増強を段階的に行い、2019年には大型の第2プラントを新設するなど、生産能力は徐々に拡大しました。現在、当社は世界最大級のCF₃Iメーカーとして世界に製品を供給しています。

 

img_story_07_02
ロータリーキルン
img_story_07_03
ヨウ素学会賞

代替ガスとして広がる用途

CF₃Iの最大の特徴は「大気中ではさっと消えていく」という点です。大気寿命が短く、オゾン層破壊や地球温暖化への影響が規制対象物質に比べてはるかに小さいため、様々なフロンの代替物質としての活用が期待されます。例えば、半導体向けエッチングガス分野では、地球温暖化係数の大きい既存ガスの代替品としての伸びが期待されています。さらにCF₃Iは航空機エンジン向け消火剤として大手航空機メーカーへの採用が検討されています。このほか、大型市場に成長すると見込まれるのが、マグネシウム鋳造用のカバーガスです。溶融状態で酸素に触れると激しく燃焼するマグネシウムを、品質は保ったまま安全に加工するためのカバーガスとしてCF₃Iの利用検討が進んでいます。

地球温暖化係数が二酸化炭素より低く、半減期1日と環境に優しいCF₃Iは、こうした様々な分野で既存ガスと同等の性能を示します。また、CF₃Iはその分子構造からフッ素系化合物に対するPFAS規制の対象から除外されているという点も、幅広い用途で環境対応型代替ガスとして期待されている理由の1つです。

pagetop