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MAO(メチルアルミノキサン)
現代社会を支える重合触媒
MAO(メチルアルミノキサン)は、高機能ポリオレフィン樹脂の生産に欠かせないメタロセン触媒を構成する必須材料です。メタロセン触媒を使ったポリオレフィンには世界で最も需要が多い低密度ポリエチレンやエラストマーがあります。当社は低密度ポリエチレン向けにPMAO、エラストマー向けにMMAOを生産しており、この2つのグレードをいずれも供給できる国内唯一のメーカーです。2021年には原料の TMAL(トリメチルアルミニウム)を内製化する設備を建設し、原料から製品までの一貫体制を構築しています。
進化するポリオレフィンに必須の重合触媒
ポリマーとメタロセン重合
ポリオレフィンなどのポリマーは、それを構成するモノマーの種類、数、結合の仕方などによって異なる性質を示します。そのため、狙った性質のポリマーを製造するには、重合反応を制御する技術が極めて重要となります。1980年にカミンスキーは、遷移金属触媒とMAO(メチルアルミノキサン)を組み合わせたメタロセン触媒を開発しました。メタロセン触媒を用いると、チーグラー・ナッタ触媒を用いたときと比べて均一度が高いポリマーを合成することができます。この発明によって重合反応が制御でき、強度が高い、透明度が高い、耐熱性に優れるなど、これまでにない高い機能性を持つポリマーの誕生へとつながりました。

代表的な高機能ポリオレフィンであるmLLDPE(メタロセン直鎖状低密度ポリエチレン)は、その強度を生かして米袋などの重量物包装や輸液バッグなどの医療用途で用いられています。また、メタロセン触媒はエラストマーと呼ばれるゴム弾力を持つポリオレフィンの製造にも用いられています。
MAO開発の歴史
MAOには2つのグレードがあります。主にmLLDPEの製造に用いられるPMAO(ポリメチルアルミノキサン)と、主にエラストマーの製造に用いられるMMAO(修飾メチルアルミノキサン)です。当社はメタロセン触媒にいち早く着目し、1985年からMAOの開発を始めました。
このうちMMAOはTMAL(トリメチルアルミニウム)とTIBAL(トリイソブチルアルミニウム)を原料として、加水分解によって得られます。当社はアクゾからMAOに関する技術導入を行い、2001年にMMAO製造設備を設置し、生産を開始しました。
一方、PMAOはTMALのみを原料とした加水分解によって得られ、主にmLLDPEの製造に使われます。PMAOは世界的にも需要が大きいものの、当社はTMALを保有しておらず、長年PMAOに参入できていませんでした。そうしたなか、2018年に顧客からPMAOの大量供給打診を受けたことを契機として量産化検討に取り組みました。
PMAOの工業化とTMALの自動化
PMAO量産化にあたっては、製造プロセスの確立のほか、原料であるTMALを安価かつ安定的に入手する必要がありました。当社は過去にTMALの価格高騰や供給不安を経験したこともあり、PMAOの量産化にはTMALの自製化が必須と判断しました。
TMALの製造法はいくつかありますが、海外で工業化されている手法を採用した場合、日本では廃棄物処理費用がかさみ、採算が合わないということが判明しました。そこで当社は、従来法より廃棄物の少ない「Al-Mg(アルミニウム-マグネシウム)合金法」に着目し、種々の条件検討を行いました。TMALの生成に効果的な触媒を見出したことで収率が大幅に改善し、安全かつ安価にTMALを製造できるようになりました。従来、Al-Mg合金法は反応収率が低く、工業化は難しいと思われていましたが、当社はこれを世界で初めて達成しました。
一方、PMAO製造プロセスの確立にあたっては、反応装置の工夫を行いました。PMAOはTMALを部分的に加水分解することで合成されますが、TMALには水と接触すると爆発的に反応する性質があります。そこで当社はTMALの加水分解を精密に制御するフロー系の反応装置を開発し、高速撹拌可能なミキサーを採用することで、安全で高効率なPMAOの製造プロセスを確立しました。2019年末には商業スケールでの試作を行い、工業的な製造プロセスを実証しました。
PMAOプラント2020年に発足したLMプロジェクトでは、これらの技術を用いてPMAOプラント、MMAOプラントの増強とTMALプラント建設のための大型投資を実施しました。2021年にTMALプラントとPMAOプラントが完工し、当社は国内初となるTMALからMAOまでの一貫生産体制を確立しました。現在、当社はMMAO、PMAOの2大グレードを供給できるメーカーとして、ポリオレフィン重合触媒の分野でアジアトップを目指しています。
また、TMALの外販に向けた動きも広がっており、太陽電池や電子材料向けの高純度化TMALの開発も進めています。当社はTMALをキーマテリアルとして、より付加価値の高い製品を社会へ提供していきます。
製法・ラインナップ

用途
自動車のバンパーは軽量化を実現するため、ポリプロピレンの複合材料が使われます。この複合材料には耐衝撃性を付与するため、MMAOを重合助触媒として作られるエラストマーが使われています。

PMAOを重合助触媒として製造されるmLLDPEは、薄くて丈夫、においが少ない、強度が高いなどといった優れた機能性を持ち、産業用フィルムや食品包装用袋に使われています。

ランニングシューズのミッドソールに必要なクッション性を持たせるのに、低比重で柔軟なオレフィン系エラストマーが使われます。このエラストマーの重合にはMMAOが用いられています。