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NaSS(p-スチレンスルホン酸ナトリウム)
光臭素化反応から生まれた特殊モノマー
NaSSは、大型プラントでは非常に珍しい光臭素化反応を利用して製造される機能性モノマーです。多種多様なモノマーと共重合できる高い重合性と水溶性とを兼ね備えたユニークな特徴を利用し、染料などの添加剤をポリマーに固定化したり、水中での重合時の乳化剤として使用したりと多彩な機能を持つ製品です。様々な分野でNaSSのニーズは強く、その用途開発は現在も続いています。
多用途に広がる機能性モノマー
臭素事業の強み追求
当社の親会社である東ソーは臭素や塩素をはじめとするハロゲン化学に力を入れ、これらを原料としたファインケミカル製品を展開してきました。なかでも国内市場で最大のシェアを有する臭素については、その用途拡大、付加価値向上を目的とした誘導体の開発が重要なテーマでした。そうしたなか、1972年に開発を始めたのがNaSS(p-スチレンスルホン酸ナトリウム)でした。NaSSの製造工程には無水HBr(臭化水素)が不可欠で、HBrを生産している東ソーにとっては自社の臭素事業の強みを生か すことができます。当時、NaSSを工業生産している企業は米国に1社のみというなかで、東洋曹達工業は国内初のNaSS量産化に取り組みました。
革新技術のかたまり
ところが、製品化したNaSSには、貯蔵・輸送時の安定性が低く、使用期限が短いという課題がありました。これは、NaSSが「無水結晶」という状態では自然重合によって固結しやすく、有効成分が減少してしまうためでした。ブレイクスルーとなったのは、NaSSの無水結晶ではなく「半水塩結晶」、2分子のNaSSに対して1分子の水が付着した結晶として製品化したことでした。これにより競合品と比べて安定した品質の製品が得られるようになりました。1996年にNaSSの半水塩結晶に関する物質特許を取得したことで、東ソーは半水塩NaSSを優位に製造・販売できるようになり、これがNaSS事業発展の大きな推進力となりました。
NaSS製造におけるもう1つの技術的特徴は、紫外線照射による位置選択的な臭素化反応です。これは、光の力によって、通常では反応の難しい位置に選択的に臭素原子を導入する方法です。当初、この工程では溶媒として四塩化炭素という塩素系の有機溶媒が使用されていました。しかし、1987年採択のモントリオール規制によって四塩化炭素の輸入や製造が規制され、溶媒変更を余儀なくされました。そこで東ソーは、光反応という特殊な条件下でも使用可能な溶媒を鋭意検討し、環境対応型の代替溶媒を見出しました。開発当初は、ラボと実機では液深や光の照射効率が大きく異なることから、なかなか有用なデータを得られませんでした。ラボの実験装置を実機に近づけるために反応装置を改造し、できる限りプラントの製造条件を再現するなどの工夫を行うことで、1993年には量産設備において代替溶媒を用いたプロセスを実現することができました。
その後、2000年にNaSS製造事業が東ソー有機化学へと移管されてからも製造技術の改良や用途開発は続き、現在のNaSS事業の広がりへとつながっています。
多様な用途
NaSSは重合性に富んだ化合物であり、重合用モノマーとして幅広い用途で使われています。そのなかでも最も多い用途が繊維染色助剤です。特に多いのがアクリル繊維向けの染色助剤で、ウィッグの色付けなどに使われています。とりわけ、主にアフリカで需要の多いドレッドヘア向けのウィッグ素材には、染色の風合いが良く、鮮やかな色が出やすいNaSSが多く用いられています。
次に多いのは反応性乳化剤用途で、ペンキなどの水性塗料の添加剤としてNaSSが用いられています。これは製品化当時の1980年代から続く息の長い市場です。
また、当社はNaSSの重合体であるポリNaSSも製造・販売しています。資源開発分野では、シェールガス・オイルの掘削工程でガス・オイルの回収時に重要な粘度調整剤としてポリNaSSが使用されています。さらに海水淡水化などの用途にもポリNaSSの活用が進められており、今後の実用化が期待されています。
相次ぐ生産能力の拡大
こうした技術革新や用途開発によって、当社はNassのリーディングカンパニーとなっています。参入時には唯一の競合であった米国企業も生産を停止し、現在では当社を含む限られたメーカーが世界の需要に応えています。
用途開発によりNaSSの市場が広がる一方、当社は需要に対応するため継続的な生産能力拡大を進めてきました。1980年の年産240トンの量産設備の建設からはじまり、3年後にはポリNaSSプラントを建設、さらに1988年には年産600トンの新NaSSプラントを建設しています。その後も2005年、2013年、2019年と能力増強を続け、現在では年間1,000トン以上の生産能力を有しています。
製法

ラインナップ



用途
アクリル繊維の重合成分としてNaSSが使用されています。NaSS分子が染料と結合することで繊維を自然な色合いに染めることができます。これらの繊維は、ウィッグや衣料などの用途に利用されています。

NaSSは、様々なモノマーの乳化重合を助ける反応性乳化剤としても利用されています。対象製品に耐水性や耐熱性などを付与することができ、主に水性塗料向けに利用されています。

NaSSの用途は今もなお広がり続けています。最近では、水処理の用途でスケール防止剤として利用されるほか、シェールオイル回収用途、半導体用途などでの利用が進展しています。
