独自製法と安定した供給体制の看板フッ素製品

TFEA(トリフルオロエタノール)はCF基を含む最もシンプルなフッ素系アルコールです。すべての元素のなかで最も電子求引性の高いフッ素の効果によって、TFEAの機能性は一般的なアルコールとは大きく異なり、主力の麻酔薬、医農薬品、有機合成用の溶媒などに幅広く利用されています。当社は顧客サービスや品質、供給安定性などの面でユーザーから高い評価を得ており、世界トップメーカーとしての地位を確立しています。

麻酔薬からペプチド合成溶媒まで幅広い用途を持つTFEA

総合フッ素化合物メーカーへの第一歩

TFEAは1933年にベルギーの化学者によって初めて合成され、1960年に米国企業によって商用生産された、歴史のある化合物です。当社は1978年より東洋曹達工業(現・東ソー)と共同開発チーム(FCチーム)を立ち上げ、フッ素化合物製品の多様化に取り組んでいました。そうしたなか、当時の主力製品であったハロンガスとの技術面での共通性があったことを背景に、TFEAの工業化プロセス開発に着手しました。

1983年からパイロットプラントでの製造とサンプルワークを開始し、1985年には第1プラントが完成しました。その後、需要拡大もあり1993年には年産1,000トンの第2プラントを建設しました。

 

特許技術で優位性発揮

TFEAは2段階のプロセスで製造されます。1段階目では、原料のトリクロロエチレンにフッ酸を反応させ、気相触媒フッ素化反応によってTFEC(トリフルオロエチルクロライド)を製造します。続く2段階目では、TFECの加水分解によってTFEAを製造します。

当社技術の特徴は2段階目の加水分解工程です。既存製法では、加水分解工程に2段階のプロセスが必要でしたが、当社はγ-ブチロラクトンという溶媒を使うことでこの工程を1段階に短縮できるということを見出しました。これにより設備のコンパクト化やコストの低減が実現しました。当社はこの技術で特許を取得し、TFEA事業における技術的優位性を高めました。

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TFEAの操作中の様子

また、原料であるフッ酸を安全に扱うノウハウも重要です。フッ酸は皮膚に触れると体内に浸透し、骨を侵すという非常に毒性の高い物質です。TFEA製造時にはこうしたフッ酸を200°C以上に加熱して気体として扱う必要があり、取り扱いを一歩間違うと重大な事故につながりかねません。こうした難易度の高いプロセスを安全に行うための知識と経験は、当社のハロゲン事業を支える技術の根幹といえます。

存亡の危機のなかで、当社の強みを確立

TFEAはこれまで、事業存続の危機を2度経験しています。最初の危機は、製法特許が失効となる2002年でした。これに向けて、当社は1998年にEAプロジェクトを立ち上げ、TFEA事業の競争力強化に取り組みました。プロジェクトでは、特許網の構築による製造技術の防衛と、製法や運転条件の見直しによる生産能力増強を行いました。なかでも、気相フッ素化反応に適した新たな触媒を見出したことで、投資なしで生産能力を増強することができたことは大きな成果でした。

また、2000年代に起こった2度目の危機では、市場価格の下落や円高の影響もあり、当社のTFEAの売上が大きく低迷しました。非常に厳しい事業環境でしたが、当社はこれまで供給責任を果たしてきた実績を武器に粘り強く営業活動を行い、TFEA事業の存続へとつなげました。

広がる用途

フッ素(F)原子を含む医農薬品は、分子中に含まれるフッ素の効果によって、活性物質そのものとして働いたり、活性物質(医薬品の有効成分)の働きを助けたりします。こうした効果によって、TFEAは主に麻酔薬原料として利用されています。また、消化器系潰瘍、狭心症などの医薬品の原料としても用いられ、有効成分の体内への吸収効率を高めています。この効能は農薬でも活用され、TFEAは除草剤向けにも用いられています。さらに、現在開発が活発化しているペプチド合成の溶媒としてもTFEAの利用が期待されています。

 

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TFEAの荷姿
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TFEAのISOコンテナ
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