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CLESCORT®を利用した抗菌・抗ウイルス機能の付与
はじめに
感染症予防や衛生環境の向上が求められる現代社会において、抗菌・抗ウイルス性能を持つ素材への関心は急速に高まっています。なかでも、視覚的な透明性と高い抗菌性能を両立する透明酸化亜鉛膜は、注目すべき技術と言えます。東ソー・ファインケムは透明酸化亜鉛膜を簡便なプロセスで塗工可能な新規材料「CLESCORT®」を製品化しており、本記事では、「CLESCORT®」の成膜プロセスから、試験データに基づく性能評価までを解説します。
1.抗菌材料の概要
抗菌材料は、細菌やウイルスなどの微生物の増殖を抑え、衛生環境を向上させる素材です。医療現場や食品加工施設、公共施設など、衛生管理が重要な場所で幅広く活用されています。以下では、抗菌材料の特性や種類について説明します。
1.1 抗菌材料の役割
抗菌材料は、以下の役割を果たします:
•細菌の増殖抑制: 感染リスクを低減し、衛生環境を保つ。
•劣化防止: 製品の腐敗や変色を防ぎ、寿命を延ばす。
•快適性向上: 清潔な環境を提供し、使用者の満足度を向上させる。
特に、近年の感染症対策の強化に伴い、その重要性はますます高まっています。
1.2 主な抗菌材料の種類と特性
抗菌材料は、有機系と無機系の2種類に大別されます。以下の表にはそれぞれの主な特徴を示します:
1.3 抗菌材料選定のポイント
抗菌材料を選定する際、以下の要素が考慮されます:
•安全性: 人体や環境に優しいこと。
•持続性: 長期間、抗菌効果を維持できること。
•コスト: 導入および運用コストが適切であること。
•適用性: 使用環境に適した特性を持つこと。
これらの要件を満たす素材の一つとして、酸化亜鉛は注目を集めています。次のセクションでは、酸化亜鉛を透明膜化した「透明酸化亜鉛膜」について解説します。
2.透明酸化亜鉛膜の特徴及びCLESCORT®による成膜
2.1 酸化亜鉛の基礎特性と応用分野
酸化亜鉛は化学式ZnOで表される亜鉛の酸化物であり、その機能を活かして、顔料、化粧品、日焼け止め、医薬品などの分野で利用されています:
•抗菌性: 亜鉛イオンの放出や過酸化水素の生成による効果。
•紫外線遮蔽: 紫外線を吸収し、表面劣化や肌ダメージを防止。
•安全性: 有害性が低く、医療分野でも使用可能。
上記特性に加え、更に透明性を有する酸化亜鉛膜は、以下の理由から幅広い応用が期待されます:
•視覚的な利便性: 製品の外観を損なわない。
•安全性の向上: 粉末酸化亜鉛に比べ吸引リスクが低い。
•多機能性: 抗菌性と紫外線遮蔽性能の機能を基材に付与できる。
2-2 CLESCORT®による透明酸化亜鉛膜の形成
東ソー・ファインケムが開発した「CLESCORT®」を用いることで、抗菌・抗ウイルス性能を持つ高透明性の酸化亜鉛膜を効率的に形成させることができます。即ち、加熱した基板表面にCLESCORT®をスプレー塗布することにより透明性と物理的特性を兼ね備えた酸化亜鉛膜を形成できます。
CLESCORT®の特長
1. 特殊環境不要:
高温炉や真空設備が不要で、大気圧下製造が可能です。
2. 高透明性:
膜の光透過率は89%以上で、視覚的な性能を損なわず、透明性を維持します。
3. 多様な基材への適用:
ガラスやプラスチックなどの基材に塗布でき、基材の性能を損なうことなく抗菌性を付与します。
幅広い応用分野
CLESCORT®技術で製造された透明酸化亜鉛膜は、以下の分野での利用が期待されています。
•医療: 抗菌性を持つ医療用フィルムや保護コーティング。
•食品: 衛生管理が求められる包装材や保存容器。
•電子機器: 抗菌性能を備えた透明ディスプレイ。
•建築材料: 抗菌性を付与したガラスや内装材。
3.CLESCORT®による抗菌・抗ウイルス・脱臭効果
抗菌・抗ウイルス性能の試験結果
CLESCORT®技術による透明酸化亜鉛膜は、その高い抗菌・抗ウイルス性能に加え、優れた脱臭効果も発揮する多機能素材です。このセクションでは、各性能を試験データに基づいて詳しく解説します。
3.1 抗菌・抗ウイルス性能の試験結果
透明酸化亜鉛膜の抗菌・抗ウイルス性能は、日本工業規格(JIS Z 2801)および国際規格(ISO 21702)に準拠した厳格な試験で評価されました。
抗菌性能試験結果の概要
試験対象菌は、大腸菌(Escherichia coli)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)です。試験結果は以下の通りです。
抗菌活性値2.0以上は、菌数が99%以上減少することを意味します。すべての試験対象菌に対してこの基準をクリアし、ウイルス試験では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が99%以上減少する優れた抗ウイルス効果が確認されました。
3.2 対象菌・ウイルスの種類とCLESCORT®の性能
透明酸化亜鉛膜の高い抗菌・抗ウイルス性能は、広範な微生物に対して有効です。以下に、試験で評価された菌種とウイルスを示します。
これらの試験結果から、医療用機器、公共施設、食品加工設備などの感染予防対策への応用が期待されます。
3.3 脱臭性能のメカニズムと試験データ
透明酸化亜鉛膜は、抗菌・抗ウイルス性能に加え、優れた脱臭効果も持ちます。
脱臭試験結果の概要
試験対象は、硫化水素、メチルメルカプタン、イソ吉草酸の3つの悪臭ガスです。
すべての試験対象ガスに対して、60%以上の除去効果が24時間以内に確認されました。この結果は、酸化亜鉛膜が悪臭物質を効率的に分解し、持続的な脱臭性能を発揮することを示しています。
おわりに
透明酸化亜鉛膜を形成可能なCLESCORT®は、抗菌・抗ウイルス・脱臭性能を兼ね備えた多機能素材です。医療分野、公共施設、家庭用品、建材など、幅広い分野での応用が期待されています。東ソー・ファインケムは、この技術を通じて安心で豊かな社会の実現に寄与していきます。
本記事に関連する学会発表資料はこちら
CLESCORTについて詳しく知りたい方はこちら
References
1) J.Sawa et al., J.Ferment. Bioeng., 86, 521-522(1998)
2) G. Applerot et al., Adv. Funct. Mater., 15, 847-851 (2004)
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